学びのコラム〜妖怪〜 大崎地域の妖怪 抑えの池の大蛇
投稿日:2025.09.22
「大蛇」は、巨大な蛇の妖怪です。
ヤマタノオロチ伝承では、村人を苦しめていた大蛇が、スサノオノミコトによって退治されました。そんな大蛇が、かつて小林村と呼ばれた江合川沿いの地区にもいたのです。

昔々、小林村の「抑えの池」に大蛇がすみついていた。村人は、大蛇をとても恐れていた。大蛇が暴れると大雨が降り、川が氾濫するからだ。そこで、大蛇の機嫌を損ねないよう村の娘を生贄として差し出していた。ある年、生贄として選ばれた娘が、今まさに大蛇に喰われようとした時、突然、白馬に乗った若武者が現れて娘を救い出し、あっという間に去っていった。村では見かけない若武者だったので、人々は、若宮八幡様が現れたのだろうと噂した。この地区には、大蛇が横になって息絶えたと言われる「横枕」、大蛇を切ったと言われる「まな板橋」という地名が残っている。
『古川市史』の第9章「口碑伝説」より
この妖怪伝承を紐解くと何が見えてくるでしょう?
大蛇は水神の化身でもあります。大蛇に生贄を出していたという話は、小林村の人々が、江合川の氾濫に苦しんでいたことを意味します。

昔は今のような土木技術はありませんから、神様に願うことで難を逃れようとしました。願いをきいてもらうには、大切な物(娘の命)を差しださなければと考えたのでしょう。世界農業遺産である大崎耕土は、初めから豊かな耕土だったわけではありません。先人たちが、川の氾濫と戦ったり、何年もかけて水路を掘ったりという努力の結果、豊かな耕土になったのです。
大蛇の伝承は、そんな先人たちの苦労を伝えてくれています。
お話しする人

野泉マヤ
児童文学作家/だがし屋竹とんぼ店主/元高等学校理科教諭/
著作:『みちのく妖怪ツアー』シリーズ(共著)『ぼくの町の妖怪』『復活!まぼろしの小瀬菜だいこん』など多数
tbcラジオ「GoGoはみみこいラジオな気分」のみちのく児童文学リレーにレギュラー出演中
この記事の担当者から
古事記の中でも有名なスサノオノミコトのヤマタノオロチ伝承が江合川にも伝わる場所があったことを知り驚きました。さらに地名としてそれが今なお残っていることもはじめて知りました。興味を持ったので実際にこの場所に足を運んでみると、野泉さんの講演でとても印象的だった恐ろしくもユニークな妖怪「日光山の笑い男」のエリアでした。(工務店ミュージアムの野泉さんの動画を是非ご覧ください)
地名や伝承から先祖は何を私たちに伝えたかったのか……3.11の震災もそうですが、忘れたころにやって来る自然災害への備えとその苦労の歴史を知る大切さを語っています。今を生きる私たちはもちろんこの先の未来においても、見逃してはならないメッセージだとあらためて思いました。
代表取締役 菅原 順一
このコラムは、弊社発行の「工務店ミュージアム 学びのコラム(2025年9月号)」に掲載したものです。